気液界面の物質移動係数を移動深さで視覚化する □□□Air-Water Mass Transfer Coefficient is visualized by Transfer Depth

(気液界面の物質移動係数k_Lの値と使い方)

地球科学での命題｢大気-海洋の物質交換｣を支配する速度定数として､物質移動係数(k_L)があります｡Wannikhof Rによると､CO₂のk_Lは地球平均風速=7.3 m/sでk_L= 10 ～16 cm/hです｡

Wanninkhof R (2014) Relationship between wind speed and gas exchange over the ocean revisited. Limnology and Oceanography: Methods 12: 351-362. https://doi.org/10.4319/lom.2014.12.351

Wanninkhof R, William E, Asher WE, Ho DT, Sweeney C, McGillis WR (2009) Advances in quantifying air-sea gas exchange and environmental forcing. Annu Rev Mar Sci 1: 213-244.https://doi.org/10.1146/annurev.marine.010908.163742

フラックスは､k_Lと濃度差(水中濃度基準)の積で表現されます｡

(フラックスを計算できるではないですか!)

k_L = 16 cm/hで計算してみましょう｡まず､O₂で考えます｡空気中のO₂は21%ですから､空気中のO₂濃度は8.6 mol/m³になります｡O₂のヘンリー･ボラティリティは30.1なので､平衡状態にある水中濃度は8.6/30.1=0.286 mol/m³です｡

flux = 0.0457 mol m^-2 h^-1となりました｡

(k_Lの視覚的理解とはなんですか?)

気相と水相を1 m立方のサイコロとして考えましょう｡接触面積は1 m²､水深は､1 mです｡気相サイコロにはO₂(g)=8.6 molが､水相サイコロ中の溶存酸素はO₂(aq)=0ですが､仮想的な平衡存在量はO₂(aq)^eq=0.286 molです｡先ほど求めたフラックスの計算は､k_L×仮想的な平衡水中濃度ですから､これは､k_L×仮想的な平衡水中存在量と見ることができます｡すなわち､k_L=16 cm/hとは､｢1 hで水深16 cmまでを飽和にできる｣という意味です｡

flux = 0.0457 ≒ 0.0458 と最後の桁がずれましたが､これは､容認される計算誤差です｡

(浅い方がO₂の供給効率が上がるではないですか!)

水深が変わると､同じ量が溶けたとしても､1 hあたりの増加割合が変化します｡水深が大きければ､O₂供給効率は低く､水深が小さければ､O₂供給効率は高まります｡

上の図は､

○ 1 h供給量0.0458 molは､水深2 mで飽和量の8% ;

○ 1 h供給量0.0458 molは､水深1 mで飽和量の16% ;

○ 1 h供給量0.0458 molは､水深0.5 mで飽和量の32% ;

と読みます｡

水の表面から､O₂が供給されるわけですから､深くなると､底の方までなかなかO₂が届かない････｡当たり前のことですね｡

･･････

(他のガスでも同様ー水素水はどれだけ水素を持っているのですか?ー)

k_L=16 cm/hとは､｢1 hで水深16 cmまでを飽和にできる｣という意味でした｡水素(H₂)で考えましょう｡気中H₂が1 atm(=40.9 mol/m³)のとき､平衡にある水中H₂濃度は0.79 mol/m³です｡

□(根拠)

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1 m×1 m×1 mの水が吸収するH₂を計算しましょう｡k_L=16 cm/hを適用すると､水深16 cmまで飽和にすることができますから､1 hあたりで0.1264 molH₂を吸収することができます｡この値を1日あたり､水1 LあたりのH₂吸収量(L)を計算すると､0.0742 L_H2/(L_water･d)になります｡

(1 atmのガスと接触する水が吸収するガス量最大値)

水面の撹拌強度を上げるとk_Lは16の10倍くらいはいけそうです｡水の体積ですが､1 m×1 m×1 mのサイコロではなく､1 m×1 m×1 mm､すなわち水深 1 mmの水膜のようなものにすれば､742 L_H2/(L_water･d)になります｡表形式(pdf)にしてみました｡k_La=k_L×(気液接触面積/体積)も併記しました｡

これはあくまで皮算用です｡この吸収量は､水素が溶け込んだ瞬間にすぐさま水中で全量が消費されるとした場合の計算値です｡もし､平均的な水中のH₂濃度が0.9 atm(分圧で表現)であれば､ガス吸収の推進力Δpは､1 atmから0.1 atmになりますから､供給量は742 L_H2/(L_water･d)から74.2 L_H2/(L_water･d)になります｡水中のH₂濃度が0.99 atmであれば､推進力は100分の1､供給量は7.42 L_H2/(L_water･d)になります｡

(おわり)

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