H8マイコンによるコントローラ(製作)
Last update: <2017/03/01 18:17:39 +0900>
- 制御基板の作成
- 感光によるプリント基板の作成
設計された基板はオリジナルのものであり市販されていない.ここでは感光基板によるエッチングによってオリジナル基板を作成する方法について説明する.感光基板とは,光によって基板のパターンを転写できるものである.付録Aに添付しているようなパターンを基板に写し,黒い部分は導通部分,白い部分は絶縁部分として基板を作成するものである.感光基板作成の手順について説明する.
- 手順1.基板のパターンを準備する.
感光基板にパターンを転写するためのフィルムを用意する.フィルムはいろいろ試したが,コピー機でOHPシートにコピーするのが良さそうである.実寸大で感光されるので,実寸大のパターンを用意しておく.なお,付録Aは実寸大ではないので注意されたい.
OHPシート1枚だけでは,黒い部分でも光が透過してしまうため,2枚以上張り合わせるのが望ましい.このとき,ぴったり張り合わせないと,後の感光手順でピンボケを起こすので,細心の注意を払うべきである(図4.1).
図4.1 パターン用フィルムの用意
図4.2.ポジ感光基板(サンハヤト12K)
- 手順2.感光基板を取り出し,基板のパターンを密着させる.
ポジ感光基板はアルミ製の包装に包まれており,あまり明るいところで開封すれば感光が始まってしまう.直射日光の当たらないところで開封し,すみやかに手順1のシートを密着させる.うまく密着させなければ,基板のパターンにピンボケが生じ,やり直しとなるので,ここも細心の注意を払う.重いガラス板を基板,パターンの上に載せ密着させるとうまく転写できる. 密着してからフィルムが動いてもピンボケとなるので,次の感光手段をよく考えてから手順2をおこなうこと.
- 手順3.感光する
直射日光でも蛍光灯でも可能である.昼間の直射日光だと10分ぐらいで十分感光できる.蛍光灯を使う場合は,電気スタンドを間近に配置して(図4.3),30分程度は感光しなければならない.一旦,感光を始めたら動かすのはやめておいたほうがよい.また蛍光灯の場合は感光ムラが生じるので,時々蛍光灯を動かし,まんべんなく感光させるのがよい.
図4.3.蛍光灯による感光
- 手順4.感光パターンを現像する
感光している間に,現像液を用意しておく.現像液は粉末の薬品をお湯に溶かすことで作る(図4.4).25度から30度とあるが,使っている間に温度が下がるので,お湯と薬品を継ぎ足していく.あるいは,現像液の周りをお湯で温めるのでもよい.温度管理を誤ると,せっかくの感光が台無しになってしまうので注意すること.
図4.4.ポジ感光基板用現像剤DP-50
感光がおわったら,すぐに現像液に入れて像を定着させる.現像にムラができないようにかくはんすること.感光の表面を強くこすると,緑色の部分(レジスト)が剥れ落ちることになるので注意すること.現像は指定されている時間より長めにおこなっても問題ない.見た目で取り出すタイミングを判断すること.現像液から取り出したあとは,基板を水洗いする.手に付着すると肌が荒れるので,現像液には触らぬこと.
現像に成功すると,図4.5のようにパターンが現れる.熱すぎる現像液で現像すると,図4.6のようにレジストが全て落ちてしまうので,温度管理には注意すること.また,感光が足りない場合には,図4.7のようにいくら現像しても銅のパターンが浮かんでこない.この場合は感光不足ということで,どうにもならない.緑色の部分を削ってすむなら削る.あるいは,感光をやり直すべきである.逆に感光しすぎた場合は,図4.8のように油性マジックで塗りつぶしておく.現像液はあとの手順でも使うので,捨てずに残しておくこと.
図4.5:現像成功例
図4.6:現像液が熱すぎてレジストが残っていない例
図4.7:感光不足の場合
図4.8:感光過多の場合
- 手順5.エッチング
基板の銅箔が露出している部分を,エッチング液(図4.9)で溶かしだす.エッチング液は専用の容器(図4.10)に注入し,ヒータでエッチング液を温めておく.また,基板を液体に吊り下げるための穴を基板の隅にあけておく.エッチング液が衣服に付着すると洗濯でも落ちないので白衣を着用のこと.
図4.9:エッチング液
図4.10:エッチング容器
エッチング液が温まっていれば,基板を吊り下げてエッチング液にひたす.基板全体が液にひたされるように,吊り下げる部分を調整しておくこと.また,吊り下げるものは金属ではなくタコ糸などの繊維のほうがよい.細い針金だとすぐに溶けてしまって,基板が液の中に落ち,取り出すのが困難である.
図4.11:基板を液にひたす
図4.12:透け具合を確認する
通常10分〜15分位で銅箔部分が溶け出すが,引き上げる前に必ず目視で確認すること.完全に銅箔が溶け出しているなら,基板が透けて見えるはずである.少しでも銅箔が残っていれば,あとで手作業による研磨・切削が必要になる.透け具合をよく観察してから引き上げること.これまでの経験上,エッチングが長すぎる分には問題がなかった.ただし,本当に長時間エッチングをしていると,レジスト部分も溶解する.
新品のエッチング液は反応時間が早いが,繰返し使っているとだんだん反応時間が遅くなる.反応が遅くなってきたと感じたら,新しいエッチング液を継ぎ足すか,全交換すること.古いエッチング液は,絶対に下水に流してはならない.この廃液は産業廃棄物である.エッチング液の容器か,ペットボトルなどに入れておき,エッチング液付属の処理剤で,必ず廃液処理すること.
エッチングが終わったら,クッキングペーパーなどでエッチング液を丁寧にふき取り,水洗いする.
- 手順6.不要レジストの除去
基板に残っているレジストを除去し,銅箔部分を露出させる.残った緑色の部分を十分感光させ,先に使った現像液の残りを使い,基板のレジストを除去する(図4.13).こちらの温度管理は適当でよく,レジストを完全に落とすのが目的なら熱くするのがよい.レジストを落とした直後は,よく乾燥させた後,フラックス剤を銅箔面に塗布する.フラックスは銅箔の酸化を防止し,はんだしやすくなる.
不幸にも図4.14のようにパターンがくっついた状態で完成したら,テスターで導通・絶縁チェックをしながら,彫刻等などでパターンを削っていかなければならない.
図4.13:レジストを除去する
図4.14:パターンが完全でない
- プリント基板の穴あけ
パターンにあわせて穴あけをおこなう.ここではミニドリルとドリル台を使って加工する(図4.15).基板の穴は0.8φ〜1.2φの大きさでよい.ただし,モータドライバ部分は穴の径を大きくしておかないと部品を差し込めない.またソケット部分など穴が直線に並んでいるところで,穴の位置がずれてしまうと,部品が刺さらなくなるので注意が必要である.
ドリルの刃を交換するには,ドリルの先端のチャックを緩める必要がある.まず,金属の棒状のものでドリルの先端(黒い部分)の穴を固定しておく.精密ドライバーなどを使うと先端が曲がるので止めておいたほうがよい.次にチャックハンドルをドリルのチャック(銀色の部分)の穴に引っ掛け,チャックを回す.チャックハンドルは銀色の鍵のような形をしており,ドリル台の電源ケーブルに結んである.
基板の4隅に3mm径の穴を忘れずにあけておく.
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図4.15:ミニドリルとドリル台
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図4.16:チャックとドリルの刃
- 部品の取り付け
基板への半田付けは,部品の低いほうから,が鉄則である.図4.17は部品装着例である.
- 銀色のジャンパ線として,すずメッキ線をつけていく.
- 抵抗(4.7KΩ,黄紫赤金)を3箇所つける.
- 抵抗(10Ω,茶黒黒金)を3箇所つける.
- インダクタ(1μH,茶黒黒)を2箇所つける.
- 14pin ICソケットを3箇所,16pin ICソケットを1箇所つける.向きがあるので注意する.ICは後から挿す.
- ダイオード(1S10)を6箇所つける.極性があるので注意する.
- セラミックコンデンサ(0.1μF,104)を10箇所つける.
- マイラコンデンサ(0.015μF,153)を6箇所つける.
- マイラコンデンサ(0.022μF,223)を3箇所つける.
- マイラコンデンサ(0.22μF,224)を3箇所つける.
- 電解コンデンサを10μF,100μF,220μFをそれぞれつける.100μFは横に寝かせられるようにする.極性があるので注意する.
- .マイコンのコネクタ,電源コネクタ,モータ用コネクタをつける.電源コネクタはXHコネクタ(2pin),モータ用コネクタはXHコネクタ(3pin)を取り付ける.
- モータアンプL6203をつける.
図4.17:部品の実装例
- DCコンバータ部作成
24V電源から5V電源に変換する回路として,図3.23に基づき作成する.部品の配置を図4.18に示す.この配置では,左側が入力,右側が出力になっている.入出力の部部にはXHコネクタをつけている.図4.19は基板のはんだパターンである.HRD051R5Eはユニバーサル基板の穴にぴったり入らないところがあるので,少しピンを斜めに曲げてから基板に取り付ける必要があった.
図4.18:DCコンバータ部品の配置
図4.19:DCコンバータ部のパターン
- シャーシの加工と定電圧電源の固定
コントローラや定電圧電源を収納するシャーシを加工する.ここではタカチ電機のUCY12-14-22GXを利用した.シャーシの底面にはφ4.2の穴を開け,定電圧電源固定用とする.詳しい寸法は図B.1に掲載する.シャーシの前面と背面のパネルには,スイッチ固定,ヒューズ固定,外部端子固定のための穴が必要である.詳細寸法は図B.2に示す.
定電圧電源をシャーシの底面に固定する場合(図4.20),M4のネジで固定することになるが,あまり長いネジを使うと定電圧電源内部と干渉するのでM4-5やM4-6程度のネジを利用する.
図4.20:定電圧電源をシャーシに固定する
電源関係の配線をパネルにとりつける.図3.22に示すとおり,コンセントからの電源はヒューズ,スイッチを経て定電圧電源に接続される.図4.21はパネルにACコネクタ,ヒューズボックスを取り付けた様子である.電源部分の配線には,短絡のないように細心の注意を払い,熱収縮チューブでむき出し部分を覆っておく必要がある.ここは安全確保のため,大変重要な点である.
図4.21:ACコネクタとヒューズボックスのとりつけ
定電圧電源やスイッチ周りの配線は図4.22のとおりである.ここで利用するスイッチは,通電状態でランプが点灯する仕組みであるため,配線がやや複雑となる.図4.21からのケーブルは,それぞれSW1,AC2に配線される.2本のうち,どちらでも問題ない.一方,AC2からSW3,AC1からSW2に接続されている.スイッチ側の端子部分は,かならず熱収縮チューブで覆うことが重要である.また,定電圧電源との接続部分では,圧着工具を使い,圧着端子をカシメるのがよい(図4.23).参考までにスイッチの内部回路を 図C.1に添付する.
図4.22:定電圧電源,スイッチ周りの電源
図4.23:圧着端子
- ケーブルの作成
内部の回路を接続するため,ケーブルを作成する.ケーブルの種類は以下の通りである.
- (a)モータアンプ用電源ケーブル
定電圧電源からモータアンプに24Vを供給するケーブルである.図3.22の真ん中のケーブルに相当する.具体的には図4.24のようになる.モータアンプ側のコネクタには極性があるので注意する.
図4.24:モータアンプ用電源ケーブル
- (b)DCコンバータ用電源ケーブル
定電圧電源からDCコンバータに24Vを供給するケーブルである.この部分が通電すると,5Vが出力されるため,実質的には5Vの電源スイッチになる.図3.21の一番したのケーブルに相当する. 具体的な配線を図4.25に示す.コネクタ部分では,モータアンプ用の電源ケーブルと極性が逆になっているので,間違えないように気をつける.
図4.25:DCコンバータ用電源ケーブル
- (c)マイコン用電源ケーブル
DCコンバータから出力される5Vの電源をマイコンならびにフォースディスプレイコントローラの論理回路系に供給するケーブルである.マイコン側は2.1mmの標準DCジャックになっており,外側がGND,内側が5Vである.このDCジャックに合うDCプラグを使うと,シャーシと干渉してしまうため,DCプラグを図4.26のように分解し,ケーブルを省スペースに収めるためのトリッキーな工夫が必要である.
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図4.26:DCプラグの分解とケーブルの省スペース化
実際のケーブル配線は図4.27のとおりである.DCコンバータ側のコネクタには極性があるので注意する必要がある.
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図4.27:マイコン用電源ケーブル
- (d)RS-232C内部ケーブル
マイコンのRS232Cコネクタの信号をシャーシの外側にだすためのケーブルである.通信で利用する信号線は2pin,3pin,5pinのみなので,この3本をストレートにつないだケーブルを 用意すればよい.D-sub9pinのコネクタで,マイコン側がオス,シャーシ側がメスである.図4.28に概略図を示す.
図4.28:RS232C用内部接続ケーブル
- (e)ポテンショメータ,モータ用内部ケーブル
ポテンショメータの信号とモータ制御の信号をシャーシの外にだすための内部ケーブルである.図4.29に配線図を示す.モータの信号が6ライン,ポテンショメータの信号が5ラインである.ポテンショメータの信号は基板の6pinコネクタ(図4.30)からDsubコネクタの6pin〜8pin,14〜15pinに接続される.また,モータ信号は基板の3pinコネクタ(図4.31)からDsubコネクタの1pin〜3pin,10pin〜12pinにつながる.図4.32に見てわかるようにモータの信号が向かって右側,ポテンショメータの信号が向かって左側に配置されている.これはお互いの信号が干渉しないようにするためである.
図4.29:ポテンショメータ,モータ用内部ケーブルの配線図
図4.30:基板側AD入力コネクタ
図4.31:基板側モータ用 コネクタ
図4.32:筐体側コネクタ
- 組み立て
これまで作成した部品を集約させ,ハードウエアを完成させる.4.1で作成したコントロール基板,4.2で作成したDCコンバータ基板,4.3の定電圧電源付き加工済みシャーシ,4.4の配線ケーブルのほか,H8マイコンボードとシャーシ内部のアルミ板が必要である.
まず4.3で作成したシャーシにスイッチ類やコネクタ類を取り付ける.スイッチの配置は,パネルに向かって左側をモータアンプ用電源ケーブルのスイッチ,右側をDCコンバータ用電源ケーブルのスイッチと決めておく.このスイッチは電源投入の順序が重要な意味を持つので,気まぐれで入れ替えるなど,個性を発揮しないほうがよい.Dsubのコネクタは六角型オスメスネジスペーサー(M2.6-4)でパネルの内側から固定する.この状態のものを図4.33に示す.
図4.33:電源,スイッチ関係を取り付けたあと
図4.34:アルミの板に固定する(写真の基板は別のバージョン)
次に1で作成したコントロール基板をアルミの板に固定する.アルミ板(UCC12-22)は基板の大きさより若干大きいサイズである(図4.34).基板を固定できるように,自分の基板の4隅にあいている穴と同じ位置に,現物あわせで3.2mm程度の穴をあける.図のようにモータアンプ側に寄せておくのがよい.加工した板にはプラスティック製のスペーサを取り付け,M3のネジによって基板を固定する.
マイコン基板を取り付ける前に,基板側のADコネクタ(6pin),モータ用電源コネクタ(2pin)を接続しておくとよい(図4.35,4.36).また,基板をシャーシに固定するため,周囲4箇所にネジをとめ,アルミ板を宙吊りにする.このとき,ケーブルをうまく配置しないと基板がうまく固定できないので,取り回しを工夫することになる.アルミ板の固定が終わったら,モータ側のコネクタを基板にとりつける.3箇所あるので,間違えないように気をつける(図4.37).
図4.35:ADコネクタの取り付け
図4.36:モータ用電源コネクタ取り付け
図4.37:基板側 モータ用コネクタ 取り付け
マイコン側にも加工が必要である.図4.38のようにマイコン基板の2隅にプラスティック製スペーサを取り付けておく.また,このスペーサの穴の幅に合うように,DCコンバータの基板を加工しておく.図4.39はDCコンバータをマイコンボードに載せているものである.この方向で,DCコンバータの右下隅をネジで固定する.また,もう一本のスペーサに合う部分(図の親指のあたり)にあらかじめ穴をあけておき,2本で固定する.
マイコンボードにマイコン用電源ケーブル,RS232C内部ケーブルを接続したら,基板本体にとりつける.また,DCコンバータの各コネクタにDCコンバータ用のケーブルと,マイコン用電源ケーブルを取り付ける.同じコネクタの形をしているが,間違えるとマイコンが壊れるのみならず,電源まで故障の恐れがあるので注意すること.
図4.38:マイコンにスペーサを取り付ける
図4.39:DCコンバータをマイコンに載せる
シャーシを閉じれば,コントローラの完成である(図4.40,図4.41).
図4.40:完成状態(正面)
図4.41:完成状態(背面)
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