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タイム・シップ(新版)
システムデザイン工学科小林 裕之 先生推薦
工大の学生ならきっとSFは好きですよね?と、都合よく仮定して自分の趣味でご紹介するのが本書「タイム・シップ」“The Time Ships”です。なんと本書、一応、あの、H.G.ウェルズ著「タイム・マシン」“The Time Machine” の公式(?)の続編とされています。そして作者はあの A.C.クラーク大先生(←知ってます?) の後継者とも言われているスティーヴン・バクスター先生。それだけでいやが上にも期待が高まりますが、……面白いです。控えめに言っても最高に。★5つ。
ストーリーは今回このコーナーで私が本書を紹介することにした目的には関係ないので簡単に。前作(The Time Machine)でやらかした失敗を挽回すべく、主人公の慌てん坊の科学者が、文明が衰退した西暦802701年に「戻ろう」とします。ところがうまく行かず、西暦657208年に着いてしまいます。しかもその世界は前回の旅とは全く異なる時間線上にある、存在しなかったはずの超科学文明社会。番狂わせが続く中、そこで出会った世話役(あるいは飼育係)の一人と共に今度は生まれ故郷の19世紀へと向かい……、とこの辺までが全体の1/4くらいです。(あとは読んでのお楽しみ。)
さて、私が本書を取り上げた真の目的はジャンル紹介です。SFと言っても非常に幅が広いのですが、本書の作者スティーヴン・バクスター先生はいわゆる「ハードSF」という分野が得意な作家です。ハードSFというのは、SFの中でも特に科学・技術・数学などの描写にうるさい分野で、これが理系人間の琴線に触れるのです。最新のサイエンス・テクノロジーが揺るぎない「原点」として存在し、そこから作者の想像力で世界を「外挿」して作られるお話です。一見あり得ないような科学技術であっても決して魔法扱いで誤魔化さず丁寧に作り込みます。ものによっては大卒程度の「学力」がないと何が面白いのかわからない、いや、言ってる意味すらわからない、という作品もあり、その厳しさを自虐的に楽しむのも一興です。当然執筆するのも凡人には無理なので、多くの作家が1つや2つの学位を有しており、前職が(あるいは現職の)ホンモノの物理学者だったり天文学者だったりエンジニアだったりしますバクスター先生然り。
ただそれ故にマニアック過ぎて気軽にお薦めしにくいというのも事実。そこで本書の出番です。この作品はそれほど「ハード」ではなく、たぶん誰でもふつうに楽しめます。そもそも物語は主人公である19世紀の科学者の一人称視点で語られるため、理解するだけなら20世紀の科学技術の知識すら不要です。しかしそこはバクスター先生の作品ということで抜かりはありません。随所にしっかり現代でも通じる「ハード」な部分が散りばめられています。
この作品を読んでみてハードSF的な要素に魂が揺さぶられたらきっと貴方はこっちの世界の住人です。ぜひもっとカタめの作品に手を出してみてください。ついでと言ってはナニですが、今まであまり興味がなかった専門分野に興味を持つきっかけにもなっておトク感もありますよ!(私自身そうでした。)
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