大阪工業大学 情報科学部 宇宙物理研究室 2007年度 卒業研究
「ニュートン重力理論におけるブラックホール形成のシミュレーション」
情報科学科 氏名 山田 祐太
2008/2/15 作成
概要 / 目次 / 卒業論文、プログラム/
概要
一般相対性理論の枠組みでは、物理量が無限大に発散する時空特異点が必然的に現れることがホーキング、ペンローズによって証明されている。 これは、一般相対性理論が時空構造を完全に記述できないことを示している。 この矛盾を解消するため、ペンローズは、特異点は必ず事象の地平線によって隠されるという宇宙検閲官仮説を提唱した。 しかし、この仮説は反例が見つかっており、現在でも一般性がどこまで成立するのかは不明である。本研究は、将来的に宇宙検閲官仮説を数値的に検証することを目的として、その準備となるプログラムを作成した。 一つは任意の数の粒子が互いに重力で作用しながら時間発展する様子を追うプログラムで、Newtonの運動方程式を解くものと、2次のPost-Newton近似した計量を用いて測地線方程式を解くものである。 もう一つはブラックホール形成の判定を行うプログラムで、Newton力学の脱出速度から判定を行うものと、光の測地線方程式を解き、光の軌跡から判定を行うものである。
本研究では、球対称な重力崩壊、ドーナツ型分布を想定したシミュレーションを行った。 図1は球対称に分布した粒子を、図2は図1を測地線方程式を解くことで時間発展した結果を示している。 また、図3は、t=1.29tff(tff はfree-fall time)で中心に全質量が集積したと仮定したときの脱出速度を示している。 図3より、r=0.3付近で脱出速度が光速をこえていることがわかる。 よって、r=0.3でブラックホールの地平線になっていると考えられる。
研究の結果、光の測地線方程式を解く方法でのブラックホール形成の判定では、時間を逆向きに進める方が、事象の地平線を判別しやすいことがわかった。 しかし、Post-Newton近似した計量を用いた時間発展では、計量の単調性よりブラックホール形成の判定が行えないこともわかった。
将来的には一般相対論での数値計算を行う予定である。
目次
- 序論
1.1 背景
1.2 本研究の目的
1.3 本研究の概要
1.4 本論文の構成
- アインシュタイン方程式
2.1 一般相対性理論
2.2 計量テンソルと計量の座標変換
2.3 スカラー、ベクトル、テンソル
2.4 共変微分
2.5 リーマン曲率テンソル
2.6 重力場の方程式
- シュワルツシルド時空
3.1 シュワルツシルド解
3.2 動径方向に進む光の振る舞い
3.3 エディントン・フィンケルスタイン座標
3.4 宇宙検閲官仮説
- シミュレーションの方法
4.1 Newtonian
4.1.1 粒子の運動方程式(Newtonの運動方程式)
4.2 Post-Newtonian
4.2.1 Post-Newton近似
4.2.2 格子の設定
4.2.3 重力ポテンシャルと計量の計算
4.2.4 計量の微分
4.2.5 粒子の運動方程式(測地線方程式)
- ブラックホール形成の判定方法
5.1 一般論
5.2 ニュートン力学の脱出速度による判定方法
5.3 光の測地線による判定方法
- 結果
6.1 モデル1:球対称な重力崩壊のシミュレーション
6.1.1 Newtonian
6.1.2 Post-Newtonian
6.1.3 Newtonian、Post-Newtonianプログラムの結果の比較と検証
6.2 モデル2:ドーナツ型分布
- まとめ
卒業論文、プログラム
卒業論文 [pdf] (6.9MB)
2007年4月からの所属先 大阪工業大学大学院 情報科学研究科
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