真貝寿明 reviews:
ブラックホール連星の初期値問題:global approach
reviewed on 2001年6月14日
preprint...
Binary black holes in circular orbits. I. A global spacetime approach
Authors: E. Gourgoulhon, P. Grandclement and S. Bonazzola
gr-qc/0106015
[published as PRD 65, 044020 (2002)]
Binary black holes in circular orbits. II. Numerical mthods and first results
Authors: P. Grandclement, E. Gourgoulhon, and S. Bonazzola
gr-qc/0106016
[published as PRD 65, 044021 (2002)]
背景
BH-BH連星の合体現象は,強力な重力波源となりうるために,重要な数値計算の対象と考えられている.そしてその初期値問題は,古くからある問題であるが,ISCO (inner most stable circular orbit)の存在に関して系統的に調べられ始めたのは最近のことだ.この論文では,lapse, shiftを含めて「初期値」を決めることを提案し,その計算実例を示した.Meudon group得意の分野でもある.
BH-BH連星の初期値問題について軽くおさらいしておく.
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有名な,NCSAグループのブラックホール正面衝突の数値計算の図(Phys.Rev.Lett. 74 (1995) 630)は,momentally staticなMisner解を初期値としたものだった.
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Bowen-York (PRD21(1980)2047)によって提案された,conformal imagingと呼ばれる手法により,non-staticなBH解が既知解を元に得られるようになり,Cook et al (PRD50(1994)5025他)がそれらの数値解を表現した.これは,Einstein-Rosen bridgesによって,漸近的平坦な2つのisometricなsheetが結合されている解である.
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Brandt-Bruegmann (Phys.Rev.Lett. 78 (1997) 3606) は,Bowen-Yorkの手法に似ているがより解くのが簡単なpuncture approachを提案した.上と同様non-static, spin入りの解が表現できるが,isometricなtopologyは,上と異なり,漸近的平坦な3つのsheetがEinstein-Rosen bridgesによって結合されている解である.
最近Baumgarte (PRD62(2000)024018)が初期値系列を求めている.
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以上の解はすべて,conformal flatの仮定が必要であるが,Kerr-Schild解の重ね合わせ,という手法もTexas group(PRD59(1999)024015他)によって提案されている.(ただし,この場合,ブラックホール同士が円運動をしている解とは限らない.)
論文内容
ここでは,circular motionを保証するBHBH初期値系列を求めるために,以下の仮定を行った.
(1) helical Killing vectorの存在.漸近的平坦性.
(2) 「Misner-Lindquest解 x 時間軸」という大域的解の存在.isometryの存在
(3) conformal flatness.
(4) maximal slicing, K=0
そうすると,lapse, shift, conformal factor の5つの成分について得られる楕円型方程式が得られる.[仮定(1)より時間微分を落とし,(1)+(3)よりshiftはminimal distortionの形になる.],そして,他のmetric 5成分の式は,解かない.(1)+(3)より,ADM mass, 運動量間にvirial 定理に相当する等式が存在することになり,それより,角速度を定義できる.仮定自体は,consisitentであるが,元来Einstein方程式の解がこのような定常解を許さないために,解かない5成分の式のfalling off 振る舞いは当然漸近的平坦性と矛盾する.しかしその点には,目をつむる.
isometryの仮定より,ブラックホールの境界条件は,きちんとつけられ(ここではsyncronizedを仮定),multi-domain spectral methodにて数値的に解いた.Schwarzschild解を使って,コードの収束性の確認.Kerr解を使って,conformal flatnessとの矛盾が有意に現れることを確認.そして,等質量BHBHの場合の系列を求めた.ただし,NSNSの場合と違って,baryon mass一定,というような条件がつけられない.そこで,virial 関係式から得られる角速度を計算し,角速度を四重極公式にて解釈することで系列を考える.その結果,わずかな差であるが,ISCOの存在が見られた.得られた角速度の値は,これまでの研究から得られている値よりも3PN近似の値に近く,従って,conformal flatnessの仮定は,それほど悪くないと期待される.
評
lapse, shiftを取り入れて初期値系列を求める,という発想はなるほど新しいかもしれないが,結局は,maximal sliceとminimal distortionの仮定をしているにすぎないようだ.もともとEinstein方程式とは矛盾するquasi-circularな解を求めているのだから,解かなかった5成分の方程式に代入して,どれだけずれてしまったか,の議論が必要だけどない.lapse, shiftを取り入れるなら,その自由度で他の系列も作れるはずであり,その可能性についても触れるべきだろう.結果の一つの「conformal flatnessの仮定は,それほど悪くない」は,言い過ぎである.
柴田氏が指摘したことだが,解系列の特定過程が物理的に明らかではない.また,駒場グループが行ったNSNS解系列での硬い星極限の議論(PRD62(2000)104015)と結果が矛盾するそうである.
いずれにせよ,この議論の方向性は悪いものではない.よりさまざまな観点からの研究を刺激することと思われる.
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