真貝寿明 reviews:
バイナリの軌道にカオスは発生するのか
reviewed on 2001年10月8日
on the published papers ...
Ruling Out Chaos in Compact Binary Systems
J.D. Schnittman and F.A. Rasio
Phys. Rev. Lett. 87 (2001) 121101
背景
相対論でカオス現象が起きる,という例は以前からしばしば報告されていた.しかし,
それらは,理想化されたシステムで特異なパラメータを取ったとき,という認識があったために,
実際の連星系合体で生じるとは私には思えなかった.重力波の放出によって,楕円軌道が円軌道に
なることが古くP.C.Peters-J.M.Mathew (Phys. Rev. 131 (1963) 435) によって報告されて以来,
エネルギーを引き抜かれてゆく系では運動は
アトラクターを持つだろう.だから,昨年Levinの論文が出版されたときは,誰もが本当か,と
耳を疑ったはずだ.上記の論文は,Levinと同じ計算を行い,タイムスケールを議論することで,
カオスにはなり得ない,と結論するものである.
参考となる論文は,
[1] S. Suzuki and K. Maeda , PRD55(1997)4848, PRD58 (1998)023005, PRD61 (1999) 024005
[2] J. Levin, PRL 84 (2000) 3515
[2b] J. Levin, gr-qc/0010100 unpublished
[3] N.J. Cornish, PRL 85 (2000) 3980
[3b] N.J. Cornish, PRD 64 (2001) 084011
あたりであろうか.順に見てみよう.
内容
- Suzuki-Maeda [1]は,Schwarzschild BHのまわりの,spinを持つtest 粒子の運動を調べた.
spinがないときは,カオスは見られなかったが,spin-orbit項があると,(spinが非常に大きい場合)
軌道はカオスになった(97).spinがあると,軌道が不安定になり,ISCOにも影響することになろう(98).
四重極公式を用いて重力波放出率を見積もると,カオス軌道からの重力波放出は,楕円軌道の時と同程度,
円軌道の10倍程度あることがわかり,重力波のスペクトルにも特徴が見られることがわかった(00).
- Levin [2]は,Kidder-Will-Wisemanによるpost Newtonian近似運動方程式を2PNまで使って
2体運動を解析した.BH+NS (10 solar mass + 1.4 solar mass)を想定している.両者にspinを持たせると
spin-spin項により,(spinが非常に大きい場合)カオス的な振る舞いが,phase space上で見られた.
スピン歳差のphase space断面が
フラクタルに見えることからも軌道はカオスと結論付け,重力波のデータ解析者にカオス発生の可能性を指摘した.
- Cornish [3]は,Levin [2]にコメントを寄せた.(a) より高次のPN項を考えればカオスにはならないだろう.
重力波により系がdissipativeであると考えるならば (系全体ではエネルギーは保存するのだが),
系はアトラクターを持つことになり,formally chaoticではない. (b) 図でフラクタル構造を示しているが,
不安定quasi-periodic軌道がないので,フラクタルにならない場合もあり得る. (c) 実際にカオスになるかどうかは,
系のdissipative time scaleとLyapunov time scaleを比較する必要がある.
- Schnittman-Rasioは,Levin [2]と同じ計算を行った.彼らのコードは5次のRunge-Kuttaで,
Suzuki-Maedaの計算を確認.Levinの計算を再実行した.Lyapunov係数を計算し,重力波のスペクトルも見た.
カオス的な振る舞いは見られなかった.そして,Lyapunovの係数の逆数と,系のダイナミカルな時間スケールを
比較すると,前者は後者に比べて非常に大きかった.したがって,系の運動が,例えカオスを起こすような
phase space上の領域を通過したとしても系全体がカオスになるとは考えにくい,と結論した.
評
非常に妥当な結論ではあるが,Levinの計算のどこが違っていたのか明確でないのが不満である.
もともとspinがある場合の重力波波形については,Apostolatosらが
94年頃 (PRD49 (1994)6274, PRD52 (1995) 605)から議論しており,
そこでカオス的になるなら,すでに報告されていても良さそうだった.データ解析者側から見れば,
「何を今さら」という内容かもしれない.ただ,実際にタイムスケールを計算した著者らの努力は評価されよう.
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