防災対策・情報を提供し自然災害から人々を守る
私の職場は、奈良県庁です。土砂災害の防災担当として、地方気象台や市町村とやりとりをしながら、リアルタイムの防災情報を提供するシステムの構築・管理および周知啓発を行っています。
奈良県は山地が多く、土砂災害の危険性の高い箇所が1万1千カ所ほどあります。そのうちのいくつかは、構造物をつくることで土石流・土砂災害の防止を図っていますが、すべてを工事することはできないため、住民の皆さんには避難してもらわなくてはいけません。危険が迫った際の避難ルートや避難場所について、どの道を通り、どこへ移動すればいいのか、情報を提供するとともに、地域と一緒になって考える取り組みをしています。
地道な研究を通して見えてきた将来像
この仕事をめざしたのは、土木職公務員だった祖父のように、大きな構造物をつくりたいと憧れたからです。その知識と技術を身に付けるために、大阪工業大学の都市デザイン工学科へ進学しました。
大学では設計図を描いたり、実験をするのが楽しくて充実していました。その一方で、自分に向いている仕事がわからず、将来どの分野に進むべきかを迷っていました。そんな時、綾史郎先生に「河川はフィールドが広いから、いろんなことが学べる」と誘われ、「水圏環境研究室」に入りました。
この研究室で取り組んだのは、淀川の「城北ワンド」と呼ばれる水たまりのような場所の環境管理・保全に関する研究です。ワンドは、天然記念物のイタセンパラの棲みかですが、外来魚の増加によって一時、野生絶滅をしてしまいました。そこで、在来種が棲める河川にするために、外来魚の駆除、生息魚類の調査などを行うことにしました。寒い冬も暑い夏も、毎日欠かさず調査をやり遂げられたのは、研究室や他大学の仲間と、親身になってアドバイスしてくださった先生方のおかげです。「君のフットワークの軽さは研究者には不可欠」という綾先生の言葉も支えになりました。
研究では、行政関係者の方々に協力を得たり、地域の方々に昔のワンドの様子を聞いたりするなど、多くの人々と交流する機会にも恵まれました。その中で気付いたのは、私は人と関わるのが好きだということです。そして、多くの人々と交流しながら何かをつくりあげていく仕事をしたいと思うようになり、それができる公務員を、改めてめざそうと気持ちが固まりました。
研究生活で培った力が防災講座で生きている
公務員となってからは、地域住民の方々に向けた土砂災害・防災に関する講座を年間20件近く行ってきました。また、防災関連のワークショップも担当し、県内を駆け回る毎日です。
強力な台風やゲリラ豪雨が頻発する昨今、大災害は奈良県にとって決して他人事ではありません。実際、2011年には紀伊半島大水害によって奈良県は河川の氾濫や土砂災害など甚大な被害を受けました。災害による被害を最小限に抑えるためにも、日頃からの避難訓練は重要です。しかし、被災経験のない方々はその認識が薄いのが現状です。そのため、説得力を持って避難訓練の必要性を説かなければなりません。訓練の必要性を理解してもらうことに、難しさを感じながらも苦なく取り組めているのは、在学中に多くの学会発表の機会をいただき、プレゼンテーション力を身に付けられたからだと感じています。その貴重な経験を、人の命を守る仕事に役立てることができ、嬉しく思っています。
2017年4月には今の部署を離れ、十津川村の工事現場で監督を務めることになりました。これからは、大阪工業大学で学んだコンクリート等の建材、橋梁工学などの知識をフルに生かして、人々の安全を守っていきたいと考えています。
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「城北水辺クラブ」では、淀川に生息する外来魚の駆除活動を実施。地元の小学生に、淀川にどんな生物がいるのかを紹介する出前講座も開催した。 -
奈良公園のそばにある奈良県庁。庁舎の屋上からは、興福寺の五重塔や若草山などが見え、風光明媚な景色を楽しめる。 -
職場に貼られている紀伊半島大水害における主要大規模崩壊マップ。この時の被害を教訓に防災に取り組んでいる。 -
■奈良県庁/県土マネジメント部砂防・災害対策課では、近年、増加の傾向にある土石流・土砂災害対策に取り組んでいる。構造物をつくって人家・人命を守るほか、災害情報の提供や、地域住民が災害マップづくりを行うワークショップも開催。住民同士の交流の機会にもなり、コミュニティ活性化に一役買っている