
最近、健康増進のための歩行やランニングをする人が増加しています。有酸素運動は、循環器系のトレーニングになるばかりでなく、認知能力に関わる前頭部の脊髄灰白質の減少を防ぐ事が報告されています。そんな報告も後押しして、歩行ブームが已然衰えないのかもしれません。しかし、今回は歩行(有酸素運動)の効果の前に、歩行動作そのものに注目してみましょう。
歩行・走行時の個人差

ちょっと歩き方や走り方を観察してみて下さい。歩いている本人は、自分の歩き方や走り方を特段意識していない人が多いと思いますが、観察するとかなり個体差がみられます。歩行動作を視覚化するために、最近よく使用されるのが、足底圧分布といわれるデータです。図1は、歩行時の足底圧分布の1例です。赤くなるほど圧力が大きく、着地時の踵と地面を蹴り出す拇指付近が赤くなっています。また、中央部分に足圧中心点(COP)の軌跡が黒く示されていますが、このCOPの軌跡は、個人によってかなり異なります。同じ人の中でも、左右足にも相違がみられます。個人内の左右差は、脚や腰等に障害があるかないかに始まり、荷物を普段どちらで持っているかなども影響します。普段右で荷物を持っていると、右足に重心がかかる事が多いようです。また、荷物を下ろした時にも、右肩が上がり左肩が下がるという姿勢になる事が多いようです。歩き方には、年齢の影響もあります。高齢者と若年者の足底圧分布の総和を比較すると、若年者には2峰性がみられますが、高齢者には、2峰性が見られなくなります(図2)。これは、加齢に伴い、下肢筋力が衰え、地面の蹴り出しが弱くなるためと考えられます。このように、様々な事柄が関連して、歩行の個人差をもたらします。
足底圧分布データを用いた個人識別の可能性

足底圧分布から得られる情報をもとに、どの程度個人認識を行えるかを検討した結果が図3になります。18人の歩行時の足底圧分布情報について重判別分析を用いて解析した結果です。詳細は省きますが、アルファベットで示されている点が1人の実験参加者が3回歩いた時の重心点になります。同年代の18人なので、似通って分布している人もいます。しかし、家庭内などの年齢層が離れていたり、体重が異なったりする場合には、個人識別はもっと容易になると考えられます。近い将来では、玄関先に足底圧分布測定用のマットを置いておけば、カメラなどで顔を写さなくても、誰がいつ外出したかが分かるかもしれません。あるいは、お店の入り口に置く事で、来店者や購買年齢層などが分かる時がくるかもしれませんね。