
クラウド、ビッグデータ、ソーシャル、モバイル。現在、コンピュータはあらゆる場面で利用されており、扱うことのできる情報も爆発的に増加しています。これにともなって、コンピュータの能力は日々進化を遂げているのですが、人間はコンピュータのように計算速度や記憶容量を増やすことはできません。せっかくコンピュータで多くの情報を扱えるのに、人間に情報を伝えられなければ意味がありません。もったいないと思いませんか?いったいどうすればこのギャップを埋められるのでしょうか。
この問題に対する一つの答えとして、人間とコンピュータのやり取りに注目します。たとえば人間とコンピュータはキーボードやマウスで人間の意志を取り込み、モニタでコンピュータの情報を獲得します。けれども、これで十分でしょうか。人間は情報を感覚で受け取っていますが、人間の感覚を100%活用しているわけではありません。そこでコンピュータの情報を様々な感覚を駆使して表現することを考えます。バーチャルリアリティとも呼ばれています。人間の感覚にもいろいろありますが、私達の研究室では人間が持つ広い視野の特性と、全身に分布する力触覚に着目し、コンピュータの扱う膨大な情報を豊か(リッチ)に伝えるための研究をしています。

周辺視野を生かした没入型ディスプレイ
人間の視覚は、実はとても広い範囲から情報を得ています。個人差はありますが、左右で200度、上下120度程度あるとも言われています。周辺になるほど視力は低下しますが、この周辺視野を活用すると、同時に多くの情報を伝えることができるわけです。
これを可能とするのが、没入型ディスプレイです。周辺視野に映像を提示する効果の一つに、高い臨場感を与えられることが挙げられます。つまり、あたかもその場所にいるかのような錯覚を与えることができます。コンピュータで生成されたバーチャルな空間を疑似体験するのに適しています。
力触覚を用いたディスプレイ
人間は視覚と聴覚から、外界の約9割以上の情報を得ていると言われていますが、残りの大半を占めているのが力触覚です。
力覚とは、人間の筋骨格系に重さや硬さなどを提示します。ひらたく説明すると、ロボットアームを介して、あたかも物体を持ち上げたり押したりしている感覚を提示することになります。実際に存在しない物体や、遠隔地に存在する物体、触れると危険な物体に対して、このような技術は効果を発揮します。
一方、触覚とは人間の皮膚表面に情報を提示します。つるつる、ざらざらなどの感覚です。携帯電話などに使用されている振動モータを活用して、表面をなぞったときの感覚の再現を行っています。
人間の感覚にはまだまま未解明の部分が多いです。嗅覚や味覚などの感覚も可能性を秘めています。いろいろな感覚で情報を直感的に表現する、そのような未来を創りたいと思っています。