
新しいモバイル通信が2020年に登場します。第5世代(5G)携帯電話です。1979年に開始された自動車電話から1985年に持ち出し可能なショルダーフォンが登場し、1987年に第1世代の携帯電話が生まれました。その後、1993年のディジタル化 (2G)、2000年の高速データ通信を可能にした3G、2010年には一層の高速化によりモバイルインターネットの需要に対応したLTE(3.9G)、 そして2015年にLTE-Advanced (4G)へと進化して現在に至っています。その間には90年代からの爆発的な携帯電話利用者の急増に対応すべく、有限な資源であり貴重な電波周波数を効率的に利用する革新的な技術が、おおよそ10年周期で投入されてきました。さらに2005年ごろ登場し、2010年代には急速に広がったスマートフォンは、モバイル通信の主たる利用目的を音声電話からインターネットアクセスへと決定付けました。これは一人当たりのモバイルトラヒック(データ通信量)の急激な増加をもたらし、一層のデータ通信高速化が急務となってLTEそしてLTE-Advancedと矢継ぎ早に新技術が導入されてきたわけです。

5G携帯電話は何を目指すのでしょう? 一つはこれまでの進化の方向にある一層の高速化です。光ファイバ通信に匹敵する最高伝送速度10Gbps(現行LTEの10倍)が目標となっており、レーダで使用されるミリ波に近い周波数も含む新しい周波数帯の新規利用とmassive MIMOというLTEよりも多数の2次元アレイアンテナでビームを形成して空間的に周波数利用効率を上げる技術によって実現しようとしています。さらに5Gでは大量のマシンタイプの端末接続収容を可能とすること、ならびにRAN:Radio Access Network(無線アクセスネットワーク)における極低遅延時間が目標とされています。これらはこれまでにないモバイルの様々な利活用を想定して掲げられた目標であり、その代表的な応用がIoT (Internet of Things)です。広いエリアに高密度に存在する非常に多数のセンサーやデバイスが同時接続可能であることに加え、自動運転やロボット制御、機器のリアルタイム制御といった応用にはRAN内で1msec以下というこれまでに経験したことのない低遅延であることが要求されています。その実現にはIoTからの膨大なデータをビッグデータとしてクラウドで処理するクラウドコンピューティングと共に、デバイスの近く(例えば無線基地局など)で処理するエッジコンピューティグを高度に併用し、IoTサービスが要求する遅延に対するQoE(Quality of Experoence)を満足させることが必要となります。また数kmから数10kmの広いエリアに分散した極低消費電力デバイスで構成されるIoTの基盤には4G/5Gモバイルネットワークだけでなく、免許不要な自営波を用いたWiSUNなどのNB (Narrow Band) -IoTやWiFiなどの様々な周波数・電波形式を用いたRANも適材適所に活用することが必要とされています。
今後、5Gモバイルを含むRANが目指すものは、IoTをキラーアプリとして様々な産業分野を横断した新たなサービス価値を創造していくことにあります。これにはインフラであるRANのソフトウェア化が重要であり、例えば様々な電波形式が混在するヘテロジニアス無線アクセスに汎用的に利用可能なRANとエッジコンピューティングの実現のために、無線基地局やネットワークの仮想化が必要になってくると考えられます。これにより伝搬特性が異なる種々の周波数帯をより柔軟に、より自由に、効率よく利用可能になることが期待されます。
当研究室もこのようなRANを実現するための要素技術として、光ファイバ通信技術と無線通信技術を融合したRoF(Radio on Fiber)技術やDRoF(Digital RoF)技術を用いたソフトウェア無線ネットワークの研究開発に取り組んでいます。ヘテロジニアス電波空間を一括して転送し、バックフォールの末端でエッジ処理する、あるいはパブリッククラウドに転送する機能を持つネットワークです。またIoT時代を見据え、膨大な数の人とモノが同時にアクセスし要求する多様なサービスQoEを、ネットワーク側が賢く判断して最適な品質で提供するネットワークの実現を目指し、その要素技術(ワイヤレスエージェント通信)についても取り組んでいます。