
画像処理研究室は、2017年から始まった新しい研究室であり、画像の高品質化や高付加価値化について研究し、社会に貢献できる画像処理技術の構築を目指しています。
当研究室が目指す高品質化のひとつとして、ハイダイナミックレンジ(HDR)化があります。これは簡単に申せば、「これまでのカメラやテレビで表現していた明暗の幅をもっと広げてやろう。明暗の強弱をもっと繊細に表現してやろう」と言うものです。せっかくですから、当研究室の宣伝をした後、そのHDR技術について簡単に解説したいと思います。

当研究室では、現在、このHDR技術を応用して、企業と共同で工業製品の劣化を非破壊で検査するシステムを開発しています。秘密保持のため詳細は記載できませんが、例えば、図1のように裏返した紙に書かれた内容を読み取るように、微弱な特徴を強調することで劣化度の判断に役立てています。また、その他にも照明環境に左右されやすいマシンビジョンのために、それらを推定し打ち消す研究など、様々な研究を行っています。研究室の活動は、 研究室サイトで確認できますので、興味を持たれましたら是非ご参照ください。当研究室は、これからも学生と共に企業・他大学と連携して社会に貢献できる画像処理技術を研究・開発していきます。

○HDR技術の解説
世界は思ったより明暗に満ちあふれています。例えば、ある場所にどれだけの光が差しているかを表す照度[lx]で私たちが住む世界を表すと、晴天の日向は100,000[lx]、屋内は20~2,000[lx]、街灯のない満月の夜は0.24[lx]となり、数字を見ただけでも大きな幅があることが分かります。皆さんは「でも、部屋の中にいても、外にいても、見え方にあまり変わりはないぞ」と疑問に思うかも知れません。
人の眼は高性能で、とても幅広い明暗を同時に知覚できます。また、順応やまぶしいものを手で隠す行動などを含めれば、人間が知覚できる範囲はもっと広がります。そのため、これだけ明暗差の激しい世界でも支障なく暮らせるのです。
一方で、カメラが表現できる明暗の幅は意外と狭いです。皆さんも「イルミネーションが綺麗に撮れない」、「夕日をバックにすると顔が写らない」と残念に思ったことがあるのではないでしょうか。これは、カメラのセンサが撮影できる明暗の幅(画像処理分野ではこれをダイナミックレンジと呼びます)が人間の眼より狭いためです。
それらを解決する技術としてハイダイナミックレンジ(HDR)技術があります。テレビのカタログで、最近では”4K”とは別に”HDR対応”という文字が見られるようになりました。これは、従来のカメラやテレビより「広い幅の明暗を表現できるぞ!」と言うものです。
HDR動画像の撮影方法はいくつかありますが、その一つに多重露光画像の統合というものがあります。これは、同じ場所を同じアングルで明るさだけを変えて撮影した複数枚の画像(多重露光画像:cf. 図2)を統合することで、一回の撮影では収められないより多くの明暗の幅を収める方法です。
さて、撮影できたHDR動画像をテレビに映してみましょう。それでは皆さんHDR対応テレビをご用意ください。と言うわけには、なかなかいきません。HDR対応テレビはまだまだ普及しておらず高価ですから、用意するのは大変です。そこで、従来のテレビへ映すことを考えます。この場合、HDR動画像が持つ幅広い明暗を従来のテレビが表現できる狭い幅に押し込めないといけません。
従来モニタ上へのHDR動画像の表示方法もいくつかありますが、代表的なものでは人間の視覚特性にしたがったものがあります。これは、コンテンツを楽しむのは人間であり、人間が見えないものは見えなくても良いのだ、と言う考えに基づきます。つまり、人間が気になる情報は残し、失われても人間が気付かない情報だけを削除することで、情報を効率的に減らして狭い幅に押し込めるということです。また、反対に人間が気付かない微弱な特徴を強調することでそれらを発見しやすくすることもできます。図3に例を示しています。
ここでは、一般的なディジタルカメラで撮影する画像についてお話ししましたが、例えばX線フィルムなどもダイナミックレンジの広い画像です。そのため、HDR技術を応用し微細な特徴や微弱な特徴を強調して可視化することで、病巣を早期に発見したり、X線で映りづらい臓器や器官を安定して観察したりできるようにする研究が進められています。
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