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研究室VOICE 文化や芸術を政策的に支援する

工学部

Profile

工学部総合人間学系教室〔語学〕

椋平 淳教授

椋平教授室

第43回Kyoto演劇フェスティバルリーフレット
 文化政策は、さまざまな思考や実践が溶け合うとても学際的な領域です。
 たとえば、新型コロナ感染拡大後の1年間で集客エンタメ業界の市場が約77%消失したとか(注1)、それでも政府はこの2年間で約5,000億円規模の支援予算を組んだとか(注2)、ならばその支援をどんな分野にどのような配分でどうやって届けるのか、といった数字にもとづく文字通りの公共政策を検討するのは、この領域です。同時に、文化や芸術活動の意味や役割そのものを数千年の人々の営みの中で解釈し、中止や延期が現代社会に及ぼす影響を分析する哲学的、文化人類学的な探求も、この領域の重要な要素です。
空の会「小泉八雲情話—冬化粧」
 さらには、実際の活動現場に関わる実演家、それもプロだけでなくアマチュアも含めた多様な人々の労働・福祉環境を高めたり、活動の拠点となるホールおよびその周辺の地域環境全体をデザインしたり、そしてその環境に集ってイベントを楽しむ観客の心の豊かさを向上させることまで、文化政策の探求は多様な方向性を持っています。
 そしてもう一つ、この領域で肝心なことは、深めた思考をどのように実践するかです。私が関わっている行政の文化事業の一つに、京都府が主催する「Kyoto演劇フェスティバル」という地域演劇祭があります。京都府立文化芸術会館という劇場を拠点として、関西一円の演劇団体や人形劇集団が毎年2月に熱演を繰り広げるものです。わずか2週間ほどの会期ですが、その準備には丸1年かかります。そのため、残念ながら2021年の冬は感染拡大の影響で、中核である公募部門が不開催に終わりました。
ちゃんばらCLUB喜怒哀楽「くノー外伝」
  しかし今年の2月は、コロナ禍1年目の悔しい経験を踏み台として、こんな時代でも舞台上演が可能になるさまざまな運営上の工夫を凝らし、例年の半分ほどの規模ながら復活を遂げました。
 実は、2,500年を超える演劇の歴史は、感染症との戦いと共存・克服の歴史でもあります。シェイクスピアやチェーホフなど、歴代の劇作家は何らかの疫病禍を背景に作品世界を構築してきました。感染症と演劇の共通性を分析し、理論化したアルトーという演劇人もいます。昨年来、ウェブによる新たな上演や観客参加の方法を発案し、そのノウハウや効果を高めている例もプロアマを問わず数多くあります。
 演劇に関わる人々は決してヘコタレず、新たな価値の創出に努める生き物なのです。
 そして、そうした実演家の活動をさまざまな角度から支援し、時代や世情に応じた心の“密”の意義を再構築する。これが今現在の文化政策のリアルであり、醍醐味です。
 
 
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(注1)ぴあ総研「プレスリリース」(2021年5月13日)
(注2)文部科学省および経済産業省資料から筆者試算