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研究室VOICE 「気は病から」の生理学

工学部
松村 潔

Profile

工学部生命工学科

松村 潔教授

生体情報研究室

図1:免疫系から脳への信号伝達はサイトカインによる。
 「病は気から」という諺があります。気分が落ち込んでいると病気になってしまうよ、元気出しなさい、という意味でつかわれます。一方、その逆の「気は病から」という諺はありません。しかし、これもまた真です。実際、Covid19では気分が落ち込んだ人も多いと思います。ウィルス感染はだるさ、痛み、発熱、食欲不振を引き起こします。これらの不快な症状が気分を落ち込ませ、身体活動を低下させます。人によってはワクチン接種(ウィルスの表面タンパク質の遺伝子接種)でも同じ症状が起こります。ですから、ウィルスそのものではなく、ウィルスの侵入を検知した人間の免疫系がこれらの症状を引き起こすのです。感染のとき私たちの活動を抑えることは生存に有利な反応であると考えられています。体内の限られた資源を免疫系に優先的にまわす「免疫ファースト」の状態なのです。感染にともなう不快な症状は「おとなしくしときなさい」という免疫系からの信号なのです。
図2:筆者の脳のMRI像(30年前)赤い破線で囲まれた領域に発熱中枢がある。
 では免疫系はどのようにして、これらの症状を引き起こすのでしょうか?ウィルスを検知した免疫系の細胞(白血球)はサイトカインと呼ばれる警戒信号物質を放出します。それが血液循環によって全身に運ばれ、脳にも作用します(図1)。サイトカインが脳の血管の細胞に作用し、そこから新たな物質が脳に放出されます。そしてその物質が発熱中枢に作用することで発熱や痛みが起こることを、私は明らかにしました(図2)。しかし、食欲不振やだるさなどの他の症状は、発熱と同じ仕組みでは説明できず、不明な部分が残されています。

 近年、特定の神経細胞だけを光や化学物質で活性化(または抑制)する手法(光遺伝学、化学遺伝学)が確立しました。また多数の神経細胞の活動を同時に測定する光学的な手法も発展しています。これらの手法を用いて、免疫系と脳の相互作用(病は気から+気は病から)の仕組みの全体像が明らかになる日も近いと思います。
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