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研究室VOICE 数兆度のクォークスープ

工学部

Profile

工学部一般教育科

門内 晶彦講師

図1 物質の階層構造
 私は原子核や素粒子に関連した理論物理学を研究しています。特に、物質が数兆度の超高温状態になったときどのような性質を示すかについての研究を専門としています。
 
私たちの身の回りにある物質は原子からできています。ではもっと細かく見ていくとどうなるでしょうか?原子は原子核と電子から、原子核は陽子や中性子から、そして陽子や中性子はクォークやグルーオンと呼ばれる素粒子からなっています(図1)。素粒子は現時点でそれ以上分けることのできない物質の最小構成要素だと考えられています。これらクォークやグルーオンは常温常圧下では「強い相互作用」とよばれる力によって陽子や中性子などの内部に閉じ込められているため、普段は直接目にすることはありません。
 
図2 クォークグルーオンプラズマ
 一方で約2兆度以上の超高温になると陽子や中性子は溶けてしまい、クォークグルーオンプラズマと呼ばれる素粒子のプラズマ状態になることが知られています(図2)。これは温度変化によって氷が溶けて水になったり、水が沸騰して水蒸気になったりするのと同様の現象で、相転移と呼ばれる現象の一種です。クォークグルーオンプラズマはビッグバンと呼ばれる宇宙誕生直後の急膨張から約1万分の1秒後の熱い初期宇宙を満たしていたと考えられています。2000年頃からは大型の加速器を用いて金や鉛などの原子核同士を光速に近い速さでぶつけることで、人工的にこの「初期宇宙の欠片」を作ることができるようになりました。
 
こうして出来た超高温物質を詳しく調べていくと、粘りの小さなサラサラの液体のように振る舞うことがわかりました。そのため「クォークスープ」と呼ばれることがあります。クォークグルーオンプラズマの運動を理解し、状態方程式や粘性係数といった物質としての基本的な性質を探るために、理論の定式化、モデルの構築、解析計算や数値シミュレーションによる評価などを通した現象論的な研究を行っています。