
工業大学で「観光」について研究していると聞くと、何となく不思議に思う人も多いでしょう。私の所属する都市デザイン工学科は、道路などの都市基盤や都市の空間(いわゆる「まち」)を整備し、それを安全・快適に利用するための技術を学びます。まちを作ることと観光がどのように関係するのか?そもそも観光は遊びではないのか?と思いたくなります。確かに、観光は生活に必要な活動や仕事とは異なり、自由な時間に行われる余暇活動の一つです。しかし、私たちの想像をはるかに超えて、観光は私たちの暮らすまちに大きな影響を及ぼすようになっています。

例えば京都や鎌倉などの歴史的都市では、観光は一つの産業として経済や雇用を生み出す重要な役割を担っています。一方、特に外国人観光者の急増にともなって、観光地の周辺で激しい交通混雑・渋滞が発生したり、地域に根ざしたお店の多くがお土産物店に転換したりして、そこに暮らす人の生活に悪い影響を与えていることが問題視されています。こうした影響は、新型コロナウイルスの流行を経た今でも広がっており、その対策が継続的に求められています。
このような対策を進めるための基礎的なデータとして、そもそも観光者がどのように行動しているのかを把握することが必要です。私たちの研究グループでは、インターネット上のソーシャルメディアで共有されている位置情報の付いた写真を利用することで、観光者の行動だけではなく、興味や属性にも着目して、「どのような人が、何に興味を持って、いつどこに訪れているか」を明らかにすることを試みています。写真には、撮影地点の情報や日時のほかに、撮影者が興味を持ったものが被写体として映し出されていることから、観光者がいつどこで何を体験したいと感じたかを推測することができるわけです。

これまでの研究では、ヨーロッパやアジアなどの同じ地域に属する地理的に近い国々でも、撮影者の興味や訪問場所が異なる場合があることなどを明らかにしています。こうしたデータが、観光地の魅力を高めつつ、都市の空間や人々の暮らしへの影響を少なくできる対策に結びつくことを考えながら、より詳細な分析を継続しています。
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