
建築構造の授業で「自分がクライアントだとしたら、構造設計者にどのように依頼しますか?」と大学生の皆さんに聞くと、「地震で壊れないように設計して欲しい」という答えがよく返ってきます。共感はできるのですが、その条件では建築物の構造設計ができません。まず、地震の強さがわからないと構造計算が始められません。また、壊れないとはどういう状態を指すのか(キズ一つない、バタンと倒れない、など)決めないといけません。
建築基準法では、稀に(数十年に一回ほど)発生しうる地震に対して、大規模な修復工事を要する損傷が生じないこと、極めて稀に(数百年に一回ほど)発生しうる地震に対して、損傷したとしても人命が損なわれないこと、という目標を定めており、それに従って建物が設計されています。

地震の強さとして、数百年に一回という表現をしましたが、その建物にとっての確率という意味です。地震の強さは単純に数値化できないのですが、一般の人にもわかりやすく言えば震度6強〜7に達する程度と言われています。そのような地震は、2024年(執筆時)から15年遡る間に、15回発生しています。日本全体で平均すると1年に1回になるので、現実味のあるリスクと感じられるでしょう。
建物を設計する上では、構造計算するために地震の強さを設定せざるを得ないのですが、その想定を上回る強さの地震が発生するリスクは存在します。東日本大震災でも「想定外」という言葉がメディアで飛び交いました。そのような巨大な地震が発生すると、法で目標とする状態を超えて、建物が完全に倒壊する懸念があります。

建物の倒壊に関する研究は、まだあまり進んでいません。柱や梁などの構造部材に極めて大きな変形が生じた際にどの程度の力に耐えられるのか、その結果、建物全体はどのように倒壊するのか、倒壊しにくい設計とは何か、私のライフワークとして取り組んでいます。
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