大阪工業大学

Notification

The contents of this website are translated by "Shutto Translation."
Please note that due to the use of automated translation, there may be cases where the translation is not correct.
Additionally, translations may not be provided for some images and PDFs.

We appreciate your understanding.

研究室VOICE 未利用熱を有効活用「熱電発電」の新素材を開発

工学部

Profile

工学部応用化学科

村田 理尚准教授

エネルギー変換物質化学

工学部 応用化学科 村田理尚准教授

●「熱電発電」とはどのようなものですか?

熱から電気を生み出す発電方法のことです。熱に着目する理由は、私たちの身の回りには捨てられている熱がたくさんあるからです。

●捨てられている熱とは?

石油や天然ガスなど化石燃料を中心とするエネルギーが、動力や熱、光として使われるまでには6割以上が排熱として地球の大気に放出されています。このように捨てられている熱を「未利用熱」といい、工場の生産過程や地下鉄・地下街、自動車の車体やエンジン、住居のエアコン室外機など、社会の至る所から発生しています。
温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにするカーボンニュートラルの実現に向けて世界中でエネルギーの創出や有効利用に関する研究が進められています。そこで、未利用熱をリサイクルして有効利用する技術の開発には大きな意味があります。

●どのようにすれば熱を電気に変えられるのですか?

素材の中には、一方を熱く、もう一方を冷たくすると、電流が流れて電気を生み出すことができるものがあります。
熱から電気を生み出す技術について、研究室の大学院生が分かりやすい動画を作成しているので、こちらを見てください(動画)
(動画)村田研究室の大学院生が作成した動画「ゼーベック効果 熱から電気を生み出す技術」
動画の中に、発電装置の「熱電変換素子」(写真1)が出てきました。下面を熱湯で温め、上面は氷で冷やすと、両面に温度差ができて電気が生み出され、オルゴールが動きました。このように熱の温度差によって電気が生み出される現象を「ゼーベック効果」と呼びます(図1)
  • (写真1)熱電変換素子。2種類の半導体を金属の回路でつなぎ、セラミックの板で挟んでいる。左が通常の形状。右は内側の仕組みが分かるよう、セラミックの板をはずしたもの
  • (図1)ゼーベック効果の概念図。熱電変換素子の両面に温度差ができると電気が生み出される

●熱電変換素子は何で出来ているのですか?

熱電変換素子には「n型半導体」と「p型半導体」という2種類の半導体が使われています。この半導体は、熱を電気に効率よく変換できるよう、「大きな電圧が出る・電気をよく流す・熱を伝えにくい」という性質を持つ素材が使われています。
ゼーベック効果は発見されてから200年近くたちましたが、熱電発電はまだ社会に浸透していません。実用化に向けて、優れた性質の半導体の研究が進められています。p型半導体は既に良い素材がたくさん開発されています。しかし、n型半導体は酸化されやすい性質があるため、安定した品質で作ることが難しく、十分に研究されていません。

●村田研究室ではn型半導体の素材を開発しています。

私は2017年、本学に准教授として着任してからn型半導体の素材を開発するようになりました。教育・研究環境が大きく変わることを機に、新しい研究に挑戦したいと考えたからです。n型半導体の素材としては、塗布・製膜できるタイプを目指すことにしました(写真2、3)。先ほども説明したように、未利用熱は社会の至る所に分散しています。できる限り有効に活用するには、柔らかく曲がる熱電発電装置が求められると考えたからです。経験のない分野を一から始めたわけですが、教員と学生が共に試行錯誤して議論をしながら研究することで、教育効果も高くなることを期待しました。
  • (写真2)n型熱電フィルムを手にする村田准教授(左)と研究室の大学院生。右側の金属の筒のついた機械で素材の性能を測定している
  • (写真3)村田研究室で開発したn型熱電フィルム

●材料にはどのようなものを使っているのですか?

ニッケルと硫黄を含む有機化合物「ニッケル錯体」を使っています。分子の構造を変えれば、優れた電気伝導性を出せると期待したからです。ニッケル錯体は全く溶解しない性質があるのですが、研究室の学生は辛抱強く実験を繰り返して、添加剤にエチレングリコールを使うことで水を使って塗布できることを発見してくれました。このn型有機半導体を2020年に論文で発表すると、新聞に掲載されたり、学会から受賞されたりして、注目を集めることができました。この学生は本学で博士の学位を取得した後、民間企業の研究職に就いて研究を続けています。
更に2022年には、ニッケル錯体にチエノチオフェンと呼ばれるユニットを組み込み、分子の構造を変えることで電気伝導性が極めて大きくなることも発見しました。発表当時は世界最高値を示し、この素材を塗布して作ったn型熱電フィルムの論文も関心を集めました(図2)
  • (図2)左図が標準的なn型のニッケル錯体の構造図。右図が村田研究室で開発したチエノチオフェンを組み込み、分子構造を変えたニッケル錯体。極めて大きい電気伝導性を示し

●n型熱電フィルムはどのような商品開発に生かされますか?

未来は「モノのインターネット」という、あらゆるものがネットワークでつながるデジタル社会になることが予想されています。膨大な数の無線センサーが利用されると見込まれ、その電源をどのように確保していくかが課題です。熱電フィルムを利用した発電装置なら、どこにでも張り付けて電源を確保することができます。未利用熱としては人間の体温も活用できるので、腕などに巻き付けて測定するヘルスケア用品の電源として利用することも考えられます。塗布できるタイプのn型半導体の素材は、プリンターを使って製造することもできます。先ほど動画に出てきた熱電変換素子に比べて製造コストの削減にもつながります。

●今後の目標を教えてください

ニッケル錯体の熱電フィルムの研究は、本学が世界的にもトップレベルです。更に安定性・性能に優れた素材を開発することで社会での実用化につなげ、未利用熱を活用した発電で世界を変えていきたいと思います。
  • 学生の作成するレポートにアドバイスをする村田准教授(右から2人目)
  • 村田研究室の大学院生。わきあいあいとした雰囲気で研究に取り組んでいる