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ニュース 【学生相談室コラム】学生相談室だより(おおよど287号2023年10月掲載)

トピックス 学生相談
『認知症の世界を身近にする「デザインの力」』

 小説や映画の中で表現されている、様々な困難や葛藤を抱えた当事者の心の世界に触れて、その描写の細やかさやリアルさに感動することがあります。どんな専門書よりも当事者の世界を生き生きと伝えられるのは、やはり「物語の力」だなぁと感嘆するのですが、最近、同じようなことを「デザイン」から感じました。それが、今回ご紹介する「認知症世界の歩き方 認知症のある人の頭の中をのぞいてみたら?」筧裕介著(ライツ社)という本です。
 同書は旅行雑誌の表紙のように、「入るたびに泉質が変わる七変化温泉」 「あっ!という間に時が経つトキシラズ宮殿」といった興味をひかれるフレーズが表紙に並びます。中身を読むと、認知症のある方を「旅人」と呼んで、「旅人の声」として当事者の体験が紹介されています。例えば、「七変化温泉」では、お風呂のお湯が日によって熱く感じられたり冷たく感じられたり、ヌルヌル感じられたりといった身体感覚のトラブルが紹介されています。認知 症のある方がお風呂に入ることを嫌がる背景には、こうした身体感覚の他に、服の着脱が困難になる空間認識や身体機能のトラブル、「自分はお風呂 に入ったばかりだ」という時間感覚のズレなど、様々な要因が考えられること がイラストとともに視覚的にも分かりやすく示されています。
 著者は社会的課題解決のためのデザインを研究・実践している方とのこと。「旅行記」という形式で表現することで、読者をその世界に引き込んで、症状だけ聞いてもなかなか想像しにくい当事者の感覚を、ありありと分かりやすく伝えてくれています。当事者に対する理解を広め、当事者と周りの人間をつなげているところに「デザインの力」を感じました。

学生相談室カウンセラー 森崎 志麻

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『イマジナリー』

 印象的なエッセイに出会いました。作家の村田沙耶香さんによる「彼らの惑星へ帰っていくこと」というエッセイです。6ページの短い作品ですが、そこで語られる世界は非常に独特で、心に響くものがありました。エッセイに書かれているのは、著者の村田さんと「イマジナリー宇宙人」との交流です。子どもの頃から繊細で、周囲になじめず生きづらさを感じ ていた村田さんは、ある時「イマジナリー宇宙人」に出会ったといいます。「イマジナリー」という名の通り、目には見えない想像上の存在です。その出会い以来、現実世界(地球)にいる必要のあるとき以外は、その宇宙人の住む惑星へ行き、そこで暮らすことで、傷ついた心を回復してきたのだそうです。そして、そんな風に目に見えない存在に命を支えられている人は、意外とたくさんいるのではないかとも綴っています。
 私自身も想像の世界で過ごすことの多い子どもだったので、このエッセイには共感するところがたくさんありました。「イマジナリー宇宙人」と聞いて、何だそれは?と驚いた人もいるかもしれませんが、アニメや小説なども含めると、目に見えない存在や、現実とは異なる別の世界というのは、私たちにとって身近なものだと思います。ただ想像の世界で暮らすとなると、それは現実逃避ではないかと思うかもしれません。しかしそうした存在や世界があることで、心が守られ、命が支えられるのなら、それは逃避ではなく、生きるために必要な営みと言えるでしょう。想像の世界には可能性が無限に広がっています。目の前にある現実世界だけにとらわれず、自分らしくいられる世界、自分の心を守るための時間、そうし たものを大切にしていきたいものです。
〔出典〕村田沙耶香「彼らの惑星へ帰っていくこと」(「信仰」(文藝春秋、2022年)に収録)

学生相談室カウンセラー 重田 智