
「医学の進歩はめざましい」とよく言われますが、医学を進歩させているのは誰なのでしょうか?医師、看護師、救命士、医療の現場で患者さんに触れる人達の多大な努力により今日の医療体制が支えられているのは間違いありませんが、それ以外にも多くの人々が患者さんの目には触れないところで活躍しています。例えば製薬メーカーでは、より良い薬を開発し、これまで治療が困難であった病気を克服しようとしていますし、レントゲンやMRIの装置を開発している機器メーカーも医療に貢献していると言えます。また、注射器や縫合用の糸といった小さなものも工学の技術により改良が重ねられているのです。これらの技術の総力を集め,患者さんを治療するという究極の目的を達成しようとするのが医学です。

からだに埋め込む器具、例えば人工血管について考えてみます。人工血管は、適切な強度・柔軟性・耐久性を有するのは当然として、血液と接触しても血の塊(血栓)を生じない性質をもつことが理想と考えられます(しかし,実際にはこれがとても難しい・・・)。では、このような理想的な人工血管を将来つくり出そうとするなら、どのような知識・技術があればよいのでしょうか?まず材料をどのようにつくるか、どのように加工するかを考えなければなりません。様々な材料の性質について理解しなければなりません。血液の流れの影響について理解しなければなりません。その材料に対する生体(血液)の反応を知らなければなりません。そうした上で、これまでにない新しいアイディアを付け加える必要があるでしょう。その新しいアイディアは、どこに眠っているのか簡単に探すことはできませんがきっとどこかに答えがあると思っています。もしかすると今はまだ若く勉強中の人がひねり出すのかもしれません。
いったい何のために勉強するのか?全国の先生達を悩ませる質問がありますが、勉強をするということは、どこにあるのか分からない宝探しのためだと私は考えています。工学の知識・技術を医療分野に使うことで、とびきり大きな宝が見つかりそうな気がしています。