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研究室VOICE モデリングとシステム同定 ---相手の心を知る方法---

工学部

Profile

工学部電子情報システム工学科

奥 宏史教授

システム制御研究室

小説や漫画、ドラマなどで、「あなたのことはなんでも分かるの」、「そう言うと思ったぜ」、といった台詞を聞いたことがありませんか。また、「そんな人だとは思わなかった」、「あなたが何を考えているのかわからないわ」、といった否定的な台詞もしばしば登場します。どちらも、自分自身ではない相手(他人)のことが「分かる」あるいは「理解する」ことに関わっています。でも、よく考えると「相手のことが分かる」とはどういうことでしょうか。批判を恐れずに言えば、「相手のことが分かっている」と思うことは、「『相手はきっとこんな人だ』という自分の頭の中に(勝手に)描いた人物像と(本物の)相手自身に同一性(identity)があると思い込むこと」、だと言えませんか。
科学的な議論では、しばしば「モデル」が用いられます。モデルとは、「対象(本物)の特性を記述するもの(あるいは表現)」のことをいい、その利用者が着目する主観的観点から対象の本質的な部分に焦点を当てて表現したもので、本物の完全なコピーというわけではありません。上述の例では、「頭の中に描いた相手の人物像」のことを「モデル」と呼んでも構わないでしょう。相手の口調やしぐさ、特定の事柄に対する考え方やもしかしたら思考過程まで頭の中にイメージを作り上げているかもしれません。しかし、相手の髪の毛の本数や基礎代謝量、握力までは知らないし、通常これらは着目点にはならないでしょう。
一般に、「良い」モデルがあれば精度の高い予測が可能です。天気予報が良い例ですね。今年のノーベル物理学賞を受賞された眞鍋淑郎博士は気候モデルの研究が高く評価されました。上述の例で言うと、良いモデル(注目する観点において本物と高い同一性をもつ人物像)をもっていれば「あなたのことはなんでも分かるの」となりますし、そうではなく人物像と本物が乖離していれば「そんな人だとは思わなかった」となりかねません。
「モデリング」とは対象のモデルを構築することをいいます。「システム同定 (system identification)」はモデリング手法の一つで、対象をブラックボックスとみなしてその入出力データから統計的な手法により入出力関係をよく説明するモデルを求める方法です。いま流行のいわゆるビッグデータ解析も同様の方法を用います。システム同定の大きな特徴は、対象の動特性(ダイナミクス)を表現できる動的モデルが得られることです。システム同定によって良い動的モデルを得るためには、入力信号にリッチな信号である持続的励振信号を加えます。持続的励振信号としては白色雑音が理想的です。上述の例で喩えると、入力と出力は相手への問いかけとその応答にそれぞれ対応し、その言葉のやり取りを重ねてどう会話が展開するか、すなわち、相手の人物像の構成要素の中の思考過程に関わる部分がダイナミクスに相当すると言えるでしょう。では、どのようにして良い動的モデル(相手の思考過程まで含む人物像)を得られるか?それは対象にリッチな信号を持続的に加えること、平たく言えば、相手にいろいろたくさん問いかけいっぱいコミュニケーションをとればいいのです。結局、たくさん相手と話をすればするほど相手のことがよくわかるようになる(かも?)という、とても当たり前の話でした。