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研究室VOICE サステナブルな野外フェスを音環境から考える

工学部

Profile

工学部機械工学科

吉田 準史教授

振動・音響研究室

●野外フェスで音の調査・分析をしています。

新型コロナウイルス禍をきっかけに、密を避けられることから音楽イベントの野外フェスが増えました。しかし、音に対して近隣住民から苦情が寄せられることもあります。主催者側は音量を下げて対応しますが、下げ過ぎると今度はアーティストや聴衆に不満が出ます。アーティストや聴衆が大音量の音を会場で楽しめ、なおかつ住民の環境も守る「適切な音」を探りたいと、2023年にFM802と「オトヂカラプロジェクト」を発足させ、万博記念公園で開催する野外フェスについて調査研究するようになりました。この活動を通じて会場内外での音の伝わり方や適切な音響レベルの上限値が分かれば、多くの野外フェス会場での音響設定に活用できます。

●音の大きさに規制はないのでしょうか?

環境基本法により定められている環境基準によると、住居地域では昼間は55デシベル以下、夜間は45デシベル以下とされています(表1、2)。野外フェスでもこの数値を超過しないよう敷地の境界などで音を測定し、会場内の音についても内規を定め出力調整をしています。ただ、会場の周りでは自動車の音や人の声など会場とは関係のない音もあることから、会場からの音がどのように広がるかを正確に把握することは困難です。また、音の伝わり方は、スピーカーの種類や設置場所、楽曲の周波数特性や、樹木の葉の茂り具合などによっても変わります(図1)
(表1)環境基準
(表2)騒音の目安
(図1)音の伝わり方のイメージ

●音をどのように計測していますか?

オトヂカラプロジェクトではステージを起点に100m刻みでマイクを持った人が立ち、インカムで連絡を取り合って演奏時の音量や周波数を同時に計測しています。並ぶ方向を変えてさまざまなパターンで計り、音源から評価する場所までの音の伝わり方を推定します(図2)。野外フェスは春から秋にかけて多く開かれるので、今はもっぱら現地でデータを集めています(写真1)
(図2)音の伝わり方の推定
(写真1)野外フェス会場での調査に向け準備している様子

●なぜ、音の研究をするようになったのですか?

子供の頃から車が好きで、大学ではエンジンの研究をしました。卒業後、自動車メーカーに就職すると、車から発生する音が商品の魅力を高めることもあれば騒音になっていることも体感して、音に興味を持つようになりました。吉田研究室では野外フェスだけでなく、さまざまな製品の振動と音に着目して、改善する技術や生かす技術についても研究しています。

●騒音にはどのようにアプローチするのですか?

例えば、冷蔵庫や洗濯機を使用しているときや、車の走行時などの不快と感じる音の改善に取り組んでいます。まずは、対象となる音がどのように聞こえているかを調べます。聞こえ方を再現するため、耳の部分にマイクを埋め込んだ人形型の録音装置を使い、両耳から聞こえている状態の音を立体的に録音します。その音を専用の再生装置を用いて多くの人に聞いてもらい、どの音がうるさいか心地よいかを評価してもらいます。
続いて、振動と音の関係を明らかにします。小指の先くらいの小さな加速度センサーを対象物のあちこちに取り付けて、どんな揺れの時にどんな音が出るかを調べ、解析します(動画1)。センサーを取り付ける場所は、冷蔵庫なら外側や内側、車ならエンジンやフレーム、ドア、天井などで、多いときには数十個のセンサーを用いることもあります(写真2)
振動と音との相関を把握した上で騒音対策を考えます。「いいな」と感じる音に近づくよう、本体におもりを取り付けたり、部品の素材を変えたりします。しかし、音は大きさだけでなく、高さによっても不快の度合いが変わります。不快に感じていない音には手を加えずに改善します。問題になる音と原因を見つけて対処する、いわば「音のお医者さん」のようなことをしています。
(動画1)走行中の自動車模型の振動を可視化したもの<※音は出ません>
(写真2)冷蔵庫の振動測定の様子

●音の高さの違いにより、聞こえ方は変わるのですか?

では、加速中の車内音を再現した(音A)と(音B)の2つの音を聴き比べてください。
(音A)
(音B)
音Aは「車の加速時に聞こえる車内音を再現したもの」で、音Bは「音Aを元に、人が不快に感じる音を低減加工したもの」です。全体的な音のレベル(音圧)はほとんど変わりませんが、音Bは人が不快と感じやすい高周波帯(1000ヘルツ帯より高い周波数帯)の音を低減させる一方、1000ヘルツ以下の回転次数音(エンジンの回転数上昇に伴って周波数が上昇する音)を増加させました。これにより、音Bはスポーツカーのような印象を与える音になっていると思います。
音は騒音になる一方で、有益な情報としても役立っています。自動車走行時には車両の状況把握につながります。電気自動車について、ロードノイズ(路面の状況により生じる騒音)やウインドノイズ(車体周りの気流の乱れに伴い生じる騒音)をどのように低減させれば快適さと走行状態の認知性能が両立するかという研究にも取り組みました。ドライビングシミュレーターを用いて、走行時の車内音やステアリング振動を再現して実験しました(写真3)。その結果、車内音について低周波、中周波、高周波をそれぞれ低減するといずれも快適さは増すものの、低周波と高周波については低減により走行中に車両がレーンからはみ出す度合いが増すことが分かりました。そこで、快適さと安全性を両立させるなら、中周波帯の低減が有効だという結果を明らかにしました。
実験内容は「日本音響学会誌」79巻11号(2023年11月1日発行)に研究速報「車内快適性と走行状況の認知性能を両立する電気自動車車内音についての基礎検討」として、発表しています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/79/11/79_548/_pdf/-char/ja
(写真3)ドライビングシミュレーターを使った実験の様子

●研究を社会に役立てるには?

これらの研究を実社会に役立てたいと、2020年にベンチャー企業「株式会社 Bettervibes Eng.(ベターバイブスエンジニアリング、https://bettervibes.co.jp/)」を設立しました。企業の製品について振動・騒音に関する問題解決に向けた計測や解析の助言、指導をしています。活動のメインは私ですが、学生にはアルバイトで関わってもらい、ものづくりの現場を体験してもらっています。企業の試作品を用いた実験に取り組むこともあり、工程でやり直しができない場合はセンサーを多めにつけたり複数の計測方法を取ったりするなど、通常の授業を超えた学びにつなげています。
研究室の学生と談笑する吉田教授(手前左端)
万博記念公園での調査を前に記念撮影する吉田教授(右から2人目)と学生たち