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研究室VOICE ナノ技術で血栓のできない人工血管に挑む

工学部

Profile

工学部生命工学科

外波 弘之准教授

ナノメディシン研究室

工学部 生命工学科 外波弘之准教授

  • 実験の様子

●「ナノメディシン研究室」では、どんな研究に取り組んでいますか?

ナノサイズの工学的技術を医療(メディシン)に応用しています。ちなみに、ポケモンのソーナノとは無関係です。

●そうなんす……か。ところで、ナノサイズとは、どれくらいの大きさですか?

1㎚(ナノメートル)は1m(メートル)の10億分の1です。桁が大きくイメージしづらいかもしれませんが、1mの1000分の1が1mm(ミリメートル)、1mmの1000分の1が1㎛(マイクロメートル)、1㎛の1000分の1が1㎚になります(図1)
  • (図1)1㎚は1mの10億分の1
    (図1)1㎚は1mの10億分の1

●うわあ! なんて小さなサイズでしょう。どんな物を作るのですか?

私の研究室では、血栓のできない人工血管を作ることを目的として、直径がナノからマイクロサイズの超極細の糸を使う研究に取り組んでいます。現在はその糸で網目状のマットを作り、さまざまな形態や加工法による違いから性能を比較しています。

●人工血管は既に使われているのですか?

動脈硬化の治療などで広く使われています。ダメージを受けた血管を切除して置き換える方法と血管の内側に挿入する方法があります。しかし、現在使われている人工血管の課題として、表面に血液が付着して血の塊(血ぺい)ができることが挙げられます。塊がはがれて血管が詰まると、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞になるリスクがあります。その予防として、人工血管を体内に入れたら、血をサラサラにする薬を飲み続けなければなりません。つまり、出血しやすくなったり血が止まりにくくなったりするリスクを抱えることになります。

●だから「血栓のできない人工血管を作りたい」と考えたのですね。でも、どうして網目状にするのでしょう?

血管の構造に理由があります。血管は「外膜・中膜・内膜」という3つの層から成り、内膜は内皮細胞でできています(図2)。内皮細胞があることで、血液は固まらずにサラサラ流れています。私は人工血管の表面を内皮細胞で覆うことができないかと考えて、細胞がくぐり抜けられる網目にすればよいと思いついたのです(図3)。ちなみに、細胞の形は一定ではなく、ポケモンに例えると、メタモンやベトベターのように形を柔軟に変えながら移動することができます。
  • (図2)
    (図2)
  • (図3)
    (図3)

●キャラクターに例えてもらうと頭の中にイメージできて分かりやすいです。人工血管に非常に小さな穴が空いているので、内皮細胞と人工血管の場所が入れ替わるということですね。材料には特殊な素材を使うのですか?

いいえ。ポリウレタンやポリエステルなど、既に人工血管などの手術で使われている素材を使います。困っている人に1日も早く届けられることを優先して、安全性が既に確認されている材料を使います。

●どうやって作るのですか?

「エレクトロスピニング(電界紡糸)」という技術を使います。シリンダーにポリウレタンやポリエステルなどの溶液(ポリマー溶液)を入れて高電圧をかけると、ノズルの先から「ナノファイバー(微細繊維)」を生成できます。生成するところを実際に見てもらいましょう(写真1・2、図4、動画)
  • (写真1)エレクトロスピニングの装置。溶液を入れたシリンダーに約1万ボルトの高電圧をかける。分かりやすくいうとピカチュウの発する電圧の10分の1ほど。
    (写真1)エレクトロスピニングの装置。溶液を入れたシリンダーに約1万ボルトの高電圧をかける。分かりやすくいうとピカチュウの発する電圧の10分の1ほど。
  • (写真2)ノズルの先から超極細糸が生成されている。ねばねばネットのようだ
    (写真2)ノズルの先から超極細糸が生成されている。ねばねばネットのようだ
  • (図4)
    (図4)

(動画)

●細いですねー。まるで綿菓子かクモの糸です。

糸の太さは溶液の濃度によって変わります。濃いほど太く、薄くすると糸にならず粒(ビーズ)が混ざります(図5)。現在は、溶液の濃度や電圧、糸を吹き付ける距離など、さまざまに条件を変えて実験を繰り返しています。完成したナノファイバーのマットを使い、厚みの違いによる細胞の移動の様子も比較しました(図6)
  • (図5)写真左から濃度の薄い順に生成した糸
    (図5)写真左から濃度の薄い順に生成した糸
  • (図6)マットの厚みにより、細胞の裏面に達する違いがみられた
    (図6)マットの厚みにより、細胞の裏面に達する違いがみられた

●超極細糸ならではの強みもあるのでしょうか?

現在使われている人工血管は直径3mm以上です。細い管は血が詰まりやすいので、3mmより小さな管の実用化は難しいのです。超極細糸で作る血栓のできない人工血管なら、脳の血管や心臓の筋肉を通る細い血管としても使うことができます。

●工学と医療が融合する研究分野について、やりがいや難しさを教えてください。

研究は「宝探し」のようだと感じます。「うまくいくのか」は、やってみなければ分かりません。そもそも、うまくいく保証なんてどこにもありません。だから、難しくて面白いのではないでしょうか。特に、工学と医療の融合分野は比較的新しいので、「やってみたらうまくいく」ことがまだまだあると思っています。まるで、宝がたくさん眠っている宝島のようなものです。金属探知機を使うのか? いにしえの古文書を読み解くのか? 最新のAIで予測させるのか? どうすれば良いかを探すプロセスにパズル的な面白さを感じています。たくさん宝をゲットして、多くの人の健康につなげていきたいと思っています。
  • 血栓のできない人工血管に向けた研究に取り組む外波准教授
    血栓のできない人工血管に向けた研究に取り組む外波准教授
  • 実験の進ちょく状況を大学院生と話す外波准教授(奥)
    実験の進ちょく状況を大学院生と話す外波准教授(奥)
  • 実験器具をセットする大学院生を見守る外波准教授(奥)
    実験器具をセットする大学院生を見守る外波准教授(奥)